東京家庭裁判所 昭和38年(少)147578号
主文
少年を医療少年院に送致する。
理由
(非行事実)
少年は
一、昭和三八年八月○日午前九時頃、事業用大型貨物自動車足一い○○○○号を運転して、埼玉県北葛飾郡○○町△△△×××番地先の幅員約六・五五米の道路を同郡○○村方向に向け進行中、同所○塚○郎方前で反対方向より進行してきた○本○紀運転の大型貨物自動車とすれちがう際、同車との接触を避けるに必要な間隔をとるようハンドルの操作をする注意義務があるのにこれを怠り、自車を道路左端に充分寄せず慢然進行し、もつて他人に危害を及ぼすような方法で前記自動車を運転し、
二、前記に際し、前記○本運転の大型貨物自動車の荷台前部右側に自車に積載していた鋼材を接触させて破損させ、このため同鋼材一本(H型長さ五・二七米)が路上に落下したのに、道路における危険を防止するに必要な措置を講じないでそのまま運転を継続し、
三、前記日時、場所において、自動車検査証に記載された積載重量八屯を二屯九四〇瓩こえた一〇屯九四〇瓩の鋼材を積載して運転し
たものである。
(適条)
一の事実 道路交通法第七〇条、 第一一九条第一項第九号、 第二項
二の事実 同法第七二条第一項前段、第一一七条
三の事実 同法第五七条第一項、 第一二〇条第一項第一〇号、道路交通法施行令第二二条
(保護の理由)
一、少年は既に中学校在学中より嘘言が多く、不良交友、夜遊び、窃盗の非行等があり、昭和三五年中学校を卒業後製靴工となつたが、間もなく傷害、恐喝等の非行を連続して行つたため、同年六月一七日当庁において保護観察決定をうけた。しかし、その後も不良交友が続き同年一〇月には再び窃盗の非行におよんだため同月二一日試験観察決定をうけ補導委託されたが、その矯正には長期にわたる指導が必要であるとして同年一二月二二日前件保護観察継続のため不処分決定をうけ、帰宅を許された。少年にはその後一般の非行はなかつたが、不良交友、夜遊び等が依然継続し、次々と職をかえ、自ら担当保護司と連絡することもなく、この間四回にわたつて無免許運転により罰金刑に処せられ、昭和三七年には無免許運転で事故をひきおこしている。本件で少年が運転していた貨物自動車の最大積載重量は八屯であるから、道路交通法第八五条第三項により少年には運転資格がなく(少年は当審判廷において、運転免許をうけるため道路交通法の勉強に用いた本に、同法付則第一四条により、同法施行の昭和三七年七月一日以前に運転免許をうけたものは、二一歳未満で運転経験が二年に達しなくても道路交通法施行令第三二条の二に規定する自動車を運転できるとあるのを、昭和三七年という部分だけ読まず、少年も運転できると思つていたと述べているが、かかる弁解そのものや、その際の態度からみて、殆ど信用できない。)本件では人身に危害こそ加えなかつたが狭い道路で鋼材を積んだ大型車を運転し、対向車とすれちがうに際し、充分な注意を払わず、慢然進行した結果事故をひきおこしたもので、運転態度は極めて粗暴であり、危険な行為である。更に少年は、本件二の行為について事故がおこつたことが判らなかつたため運転を継続したと述べているが、少年が接触した相手方の自動車がいわゆるダンプカーで接触部分が鋼製の荷台であること、少年運転の自動車の車体に損傷はないが、積荷を支えている台木が折れ、鋼材が一本路上に落下し、積荷全体が左側にかたむいているうえ、少年自身かなりの衝撃があつたと当審判廷でも認めているのであるから、事故発生について当然未必的認識があつたものというべく、このような状況を何ら顧慮せず立ち去つたことは甚だしく悪質且つ危険である。
二、少年は知能指数が「八七」でやや低いが、社会生活ができない程度ではない。しかし、性格的には自己顕示性が大きく、情緒不安定で、意志も弱い反面粗暴である。
少年には、最近一般非行はないが、これは少年の性格が矯正されたためではなく、反社会的傾向が自動車運転に向けられているものというべく、再度にわたる事故や本件における粗暴な運転態度は過去における非行とその傾向を同じくするものでかえつて自動車運転が非行性発現の媒介物となつているだけに社会的に危険な存在となつている。
又、少年の不良交友、夜遊び等は現在まで依然継続し、かなり長期にわたつているため、規範意識は完全に鈍磨し、本件についても一片の反省心も認められないばかりか、全般に無責任さと規範への極端な無関心が看取できる。
尚、少年は肺結核で今後六月から一年の継続加療を必要とする。
三、少年の父は既に死亡し、少年は、母、姉夫婦と共に生活しているが、母は当審判廷において、時には泣訴哀願し、時には脅迫的態度をとつて思いつきのままその場限りの発言をし、少年の監護養育についてどれ程の熱意があるのか疑はしく、誠意は全く認められず、少年の不良交友などは問題とも考えていないようで規範意識はきわめて低い。又少年を今後養育監護してゆきたい旨述べた義兄の当審判廷における態度はきわめて粗暴であつて、保護能力は認められない。少年の非行傾向はその先天的な素質よりはむしろ家庭内の反社会的、非倫理的雰囲気により育てられたものと考えられ、このような家庭に放置する限り少年の非行傾向は更に進むおそれが極めて大きい。
四、以上の諸点を総合すると、少年にはさしあたつて肺結核の治療が必要であるが、少年の上記のような乱れた生活や、情緒の不安定、意志の弱さ等よりみると、在宅のままで長期の治療計画にしたがうとは到底考えられない。又、少年にはこの際長期にわたつて徹底した矯正教育を施し、正しい倫理観、社会観を養わさなければ再非行にいたるおそれは極めて大きい。よつて少年を医療少年院に送致することとし、少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項、少年院法第二条第五項を各適用して主文のとおり決定する。
尚、検察官よりの送致事実中には、本件事故について、事故の概要等を警察官に報告しなかつたとの点が含まれているが、道路交通法第七二条第一項後段の義務は、同条前段の義務を行つた後に始めて発生するものと解せられるから、本件のように少年が既に同項前段の義務にもしたがわなかつたのであるから、同項後段の義務が生じるいわれがなく、この点についての少年の非行は認められない。